区間E-2・水路工の設計施工の見直しを望む

                 < 歴史的歩道整備を終って >

 大台ヶ原における伝統工法による空石積み歩道整備の平成15年度分工事が、10月の若干の手直しをも
って終了した。本会は工事段階から現場の状況を逐次HPに掲載して、環境省、奈良県、施工業者に評
価、要望を伝え、行政、業者が迅速かつ誠実に応えていただいたことに深く感謝している。全国の国立
公園歩道整備の範たる立派な出来栄えであった。

 工事中に、台風10号、11号、16号、21号が連続襲来して豪雨の洗礼を受けたが、伝統工法は一部水路
を除いて耐え切った。そして更に近畿北部に記録的大水害をもたらした23号が大台ヶ原に450ミリの追
い撃ちを加えた。5つの台風の合算降雨量はなんと3854ミリになる。台風外の降雨を加えると4000ミリ
をゆうに越えたであろう。大台ヶ原の年間降雨量は4500ミリといわれているが、今年はそのほとんどが、
8月から10月の3ケ月に集中して降った。そして、この記録的豪雨に空石積み工法は見事に耐え抜いた。
若干の一部手直しを環境省は10月末に終ったが、かつてない迅速な対応を多としたい。

 ところで、ただ一箇所だけ豪雨で石が流されたところがある。区間E−2の急傾斜の直線状の水路で
ある。当初から、使用されている石が小さいので流されるのではないかと懸念してこのHPにも書いた
が、やはり流された。そして修復工事が終ったあと、11月19日に現場を見たが、やはり石が散らばって
水路として機能していない。尤も、10月18〜21日に襲来した台風23号によって修復工事後に被害を受け
たのかどうかは定かではない。21号で崩された石段は修復されていた。

「水路は壊れ、機能していない」

【水路工の設計見直しが必要ではないか】
 設計図の水路工と水止工を比較すると水路工は水止工のように谷側に大きな水止石がなく、水路も浅
く、底に直径15cm程度の小さな石を敷き詰めるだけである。施工は正にこの設計図通りにされたと思
われる。
 崩れなかった他の工区の水路と比べて、この工区は材料の石も小さく、工事も手抜きではないかと思
ってきたが、どうやらそうではなく、設計図に原因があるのではないかと気付いた。何故他の工区のよ
うに、水路工に水止工のような大きな石を配し、水路を深くして、底の石も20cm以上の大きな石を詰め
なかったのであろうか。そうすれば石も流されなかったのではないか。

【根入れ不十分】
 尤も、小さな底石は、設計図では土中に8割以上埋め込むことになっているが、工事では地面に並べ
られただけで、そのために流される結果になった。施工の手抜きと言えるのではないか。急傾斜を急速
に流れ下る大量の雨水に耐えるには根入れが絶対必要であろう。空石積み工法では土中に石を埋める所
謂「根入れ」が重要であるにも拘わらず、この区間全体にわたって「根入れ」が不充分で、そのために
流された石が方々で見受けられたのは残念である。施工にも問題があったといえよう。
【水路からの排水側溝の設計施工不充分】
 198.7mのほぼ直線状の水路の途中に、6箇所の
排水口があるが、5箇所はただ雨水の出口が開いて
いるだけで、落ち葉に埋まって機能していない。
設計図にはそれ以上の施工指示がないので施工は
図面通りなのであろうが、せめて谷側に向かって
数メートルくらいは雨水が流れやすい深い石組み
側溝が必要ではないか。

 ここ一箇所の水路の不備だけで折角の全体の評
価が完璧にならないことが残念である。設計図を
検討して、明春雪が溶ければぜひ修復していただ
きたい。この工区は利用者も多く、今の状況を衆
目に曝すことは恥かしい。
【職人さんの発想になる倒木ダム】
 正木ヶ原に降った雨水を寫眞左の谷側に流して
歩道の水量を減らすために、倒木を利用したダム
が、区間Cの上部に2箇所作られていた。
 もともとは職人さんの発想を環境省がすぐ採用
して施工したことを多としたい。どこかの役所と
違って、税金を節約した低コストのダムである。
また、崩れた法面に倒木を並べて崩土を防ぎ、苔
や草や、果ては実生の生育を待つ施工も実施され
たが、これも職人さんの発想である。地元の山・
大台ヶ原を良く知る職人さんならではの発想であ
る。
【倒木による迂回路】
 牛石ヶ原から東ノ川に下る滝見尾根が台風21号の 
強風を受け、シオカラ谷から急坂を登りきった稜線
の歩道傍のブナが歩道をへだてた樹木にもたれかか
った。登山者の安全を図る環境省として迂回路を作
った。倒木が枯れると判断すれば切り倒せば迂回路
の必要はないが、根が完全に浮き上がっていないの
で枯れるかどうかは今の時点では判断できないので
暫く様子をみようということであろう。今年は台風
でかなりの倒木があり、丸太に切られているのも目
撃するが、可能な限り倒木はそのままにしてほしい
と思っているだけに、この配慮を多としたい。
 設置当時、ロープと木柱に塗られた防腐剤の濃い色が目立ったが、豪雨に洗われて少し色褪せ、落ち
葉の風景になじんでいるのを見てほっとした。
【平成16年度工事すでに着工】
 本年7月26日に現地説明会(HP別掲)が開催された「平成16年度大台ヶ原周回線歩道改修」工事は、
例年であれば来年春に着工されるのが常であるが、既に予算があるためか、平成15年度工事終了後、引
き続いて着工していた。場所は尾鷲辻から牛石ヶ原・区間Dまでの区間Gと、牛石ヶ原の区間Fの2箇
所で、重機でロープ柵用木柱の穴が掘られていた。

 工事関係者のテントに立ち寄ると、吉野の業者だったので驚いた。大台ヶ原の仕事は初めてなので本
会のHPで勉強して、ロープ柵がV字にならないように長い丸太を用意し、セメントが地表に出ないよ
うに注意するとのお話であったので、かなり丁寧な仕事をしていただけるとは感じた。
しかし、今年の工事が地元業者の誠意、努力で見事にできあがったことを思えば、区間をつなぐ2箇
所の工事に、改めて大台ヶ原が初めての業者を入れるとは意外であった。勿論この業者が駄目だという
ことでは全くない。折角今年の施工が地元の伝統工法によって完成した以上、その技術を持つ地元業者
に頼まずに大台ヶ原が初めての業者に頼まなければならなかった理由は何なのか納得できなかった。

 業者は元請と聞いた。税金の節約は勿論結構である。だが、奈良県の入札制度は知らないが、もし、
公開競争入札制度でないとすれば、公平な経済的・技術的競合ができる制度に改めて、適切な業者の選
定を可能にするべきである。遅まきながら、行政との癒着、談合などの永年の悪弊を排して、いまやそ
れが全国の常識となりつつある。かつて国道169の補修工事で、短い区間をこま切れにしていくつかの
業者が施工している実態を見て県に糾した所、業者育成のためとの説明であったが、それは税金の有効
使用からみて当っていないであろう。

 大台ヶ原の大規模な歩道整備事業は当分ないとしても、毎年豪雨による補修を繰返さなければならな
いであろう。予算もつくと聞く。そのためには、大台ヶ原の特異な地形、地質、気象を熟知した地元の
伝統工法が必要であり、その条件を満たす納得できる業者選定を奈良県に望みたい。特異な技術である
だけに更なる経験の蓄積も必要であり、伝統工法の継承も重要課題である。その意味での県の指導、援
助が必要であろう。
【中道の蛇篭工事】
 中道では台風21号で崩れた歩道の緊急補修
工事で谷側に蛇篭を組んでいたが、昔組まれ
た山側の空石積みと対照的に白々しく映った。
谷を埋めて歩道を作った場所柄、今後も豪雨
の度に歩道に水があふれ、壊されるであろう。
構造的欠陥であって蛇篭は一時しのぎに過ぎ
ない。谷を元に戻して歩道は橋にする以外に
解決はないであろう。
 同様のことはドライブウエーについてもいえる。谷を埋めて車道を作った以上、流路を奪われた雨水
は車道を崩して流れ下る以外方法がない。“高度経済成長期”に自然を無視し、効率を重視した愚かし
さの結果である。その補修は永遠に続く税金の浪費である。誤解を怖れずに言えば、田中角栄の「日本
列島改造論」発祥の地新潟の惨状が意味するものを考えるべき時であろう。
                             2004年11月20日     田村 義彦