大杉谷中流エリアの整備について 委員の提言を環境省はどう扱うのか―― 第3回大杉谷線歩道基本計画検討会 ――田村 義彦 ★ はじめに ★ 下流エリアは来年度着工か ★ 林野庁・三重県教育委員会「大杉谷には原則手をつけない。検討会を経て。」 ★ 崩壊地を横断する「平等ー上流部迂回路」は維持できるのか
筆者がこの崩壊地帯を破砕帯と言ったことについて事務局は定義通りの破砕帯ではないと揚げ足をとってきた。筆者は昔、白川又谷の破砕帯について調査をしたので、その程度の知識は持っているが、この場は教科書のおさらいの場ではないので無視した。論議すべきは、崩壊地に歩道を新しく付け替えて維持できるかどうかであるが、その質問には答えなかった。そして、揚げ足とりで調子に乗ったあげく、インデックスに自ら「崩壊跡地形(植生回復)」「崩壊地形(新規)」と書いておきながら、「崩壊地は植生が回復している狭い谷のことだ」と言った。だから安全だと言いたいのであろうが、それなら環境省自身が「大崩壊箇所」と名付けたのは間違いになる。崩壊地なのか、安定した地形なのか、一体どちらなのだ。詭弁、強弁は彼等の得意芸にしても醜悪だ。 ついでに更に細かく見れば、環境省はこの崩壊地の「復旧・再整備の基本方針」に「登山道は現道復旧を基本とする」としながら、「復旧・再整備の課題」に「現道が小〜中規模の崩壊の連続により分断していて、現在位置での連続した復旧は崩壊の程度が大きく困難である。」として、「付け替え(迂回路の設置)」をするという。(「小〜中規模の崩壊」が「崩壊の程度が大きい」とは、一体小なのか中なのか大なのか理解に苦しむが、その杜撰さはさておく。) さて、約200mの現在の登山道の崩落した箇所は資料「平成19年度検討結果概要」によれば5ヶ所、「大杉谷線歩道の環境調査結果概要」によれば4ヶ所で、だが(この様な資料の不整合、杜撰、間違いは日常茶飯事で、筆者は度々、会議、HPで指摘したが正されない。先日は国会でも資料の数字の杜撰さが問題になっていたのでこれが役所の常態なのだろう。しかし、これらの杜撰さには重大な意味がある。緻密な役人が本来はこのような簡単な間違いをするはずがないのに、あえて杜撰な資料を作るのは、検討会、ひいては国民を蔑視しているからである。そして検討委員もその杜撰な資料を認めて文句を言わない。多くの資料はお雇いコンサルが作成するが、それを役人がチエックしてない。)崩壊箇所の長さの積算はせいぜい30m前後に過ぎない。与えられた資料がすべて概念図で、しかも上記のように記載が違っているので正確な読み取りはできないが、40mを越えることはないであろう。だとすれば、30〜40mの現道修復の方が、200mの新規付け替え工事よりは、自然破壊がはるかに少ないと考えるのが普通であろう。何故「現道位置での連続した復旧は崩壊の程度が大きく困難で」新規付け替えの方がいいのか理解できない。無駄な工事をして業者に儲けさせたいなどと下司な勘繰りはしないが、分断された現在の登山道が不安定なのではないのか。だとすれば、だからこそ、そのような不安定な地形に新しく迂回路を200mも開削して大丈夫なのかと、質問したのだ。しかし、確答しない。(くだらないことをついでに言えば、環境省が「平等ー上流部迂回路」と名付けたが、資料を見る限り平等ーの対斜面から下流に位置していて上流には見えない。) 付け替える迂回路は近い将来に必ず崩落するだろう。その「歩道維持の自信」を役人に尋ねるのは愚問の最たるものだが、それを承知であえて質問したがやはり確答はなかった。なんと答えようが、迂回路が崩落した時には役人もコンサルもすでにいない。いままで、このようなかたちで役人の責任が問われたことは一度も無い。このように考えてくると、環境省は、近い将来に崩壊することを承知して場当たりの整備を考えているように思えてくる。 例の吊橋事故裁判後の80年代の整備を当時三重県の責任者として担当して、現在三重県木材共同組合連合会専務理事を務める委員から、平等ー基部歩道新設工事は重機が入らないから無理だと反論があった。現在の驚異的な土木技術をもってすればこの程度の工事は易しいと思うが、専門業者の意見をききたい。 ★ H委員の提言「登山道整備は公共事業で整備されるべきものではない」 これらの案について、環境庁OBで現在関西学院大学総合政策学部教授のH委員からユニークな提言があった。「登山道は登山者や山小屋の人達によって整備されるのが本来の姿で、公共事業で整備されるべきものではない。公園計画を変更して、登山道ではなく登山ルートとしてグリーンワーカー事業で行なうべし。」 H委員は2003年からネットでユニークな「H教授の環境行政時評」を毎月更新していて好評と聞くが、関連するブログのなかで、「自然公園の施設整備に年間百億円台の国費を投入しているが、維持管理とかさまざまなソフト事業にはほとんど予算がなかった。それがようやく去年一億円の予算がグリーンワーカー事業ということ で付いた。施設整備事業などは大幅カットして、そのカネを回せば日本の国立公園はもっとよくなる。」と持論を述べている。筆者は、グリ−ンワーカー事業の質の担保を前提として同感である。 H委員の意見に蛇足を加えれば、北アルプスの登山道は、例えば燕岳〜槍ヶ岳の喜作新道のように、昔、猟師、山小屋の主などが私財を投じて開削した。筆者は昨年、日本山岳会が上高地で槍ヶ岳山荘の穂苅氏を招いて開催した会議に出席したが、穂苅氏は今でも毎年ネパールの石工の青年を私財で招いて登山道の修復をしている。また、山小屋の経営者が費用を出し合って登山道の整備をしている。長野県では田中知事の時代は、県の補助金の同額を山小屋が調達することを義務付けられていた。 たえず崩壊を続ける信州の山や谷では登山者はC案かD案を選択している。ここ大杉谷においてもA案、B案に実現性がないとすればC案かD案しかない。自己責任で河原を歩くかガレの上を歩くかきめるしかない。それが登山だ。78年に大阪の観光サークルが吊橋から落ちて通行禁止になったあとも、登山者は吊橋の下を歩いていたのだ。いまも恐らく、静かな大杉谷をテント持参で楽しんでいる登山者がいるはずだ。それが、大杉谷の登山の在るべき姿であろう。 H委員の提言に三重県から異議が出た。「C/D案では、従来維持管理してきた三重県の位置付けが妙になる。」わかりにくい表現であるが、直裁に言えば、歩道が三重県の縄張りでなくなることに抵抗があるのではないか。そうであるなら、H委員が言うように三重県の単独事業としてやるしかないが、県の財政は恐らく許さないであろう。吊橋は一基に一億五千万円前後かかるようだ。 H委員の提言に筆者は賛同したが、それ以外に賛否の発言はなかった。環境省はこの提言をどう取り扱うのだろうか。従来各種検討会では異論が出てもしっかり論議を尽くすわけでもなく、採決をとるわけでもなく、環境省が「合意ができた」と判断すればそれで終わりであった。結論ありき、で委員は言いっぱなし。“会議の公開”、“住民参加”、“協働”などの文字が虚ろに見えてくる。 ★ 大杉谷の観光宣伝を止め、利用調整地区に指定すべし 環境省、林野庁、文化庁など各省庁が、自然保護のために各種の規制をかぶせている大杉谷で、役所の事業だからという理由で自然破壊がすんなりまかり通るのはなんとしてもおかしい。この検討会が免罪符に使われてはならない。冒頭に述べたように、環境省だけではなく林野庁、文化庁の免罪符にされることになる。 環境省は、「2004年(平成16年)の激甚災害は予測困難、整備費高騰、環境影響大だから考慮しない」というのはどういう意味か理解できない。80年代の復旧工事は、誤判によっていわれのない行政責任を転嫁されたとはいえ、明らかに過剰整備であった。しかも三重県が60年もつとした整備が20年しかもたなかった。その再度の復旧を図るというのがこの度の整備である以上、今までの経緯を「考慮しない」わけにはいかないはずだ。気象統計によれば今後の雨量、集中豪雨の増加が予想され、激甚災害は更に増えるであろうが、それを「予測困難」として「考慮しない」のは無責任に過ぎる。更に「環境影響大」だから「考慮しない」もわからない。また、行政の無駄遣いに世論は厳しいが「整備費高騰」だから「考慮しなくて」済まされるはずがない。 この際環境省は、目先の整備に腐心するのではなく2004年の激甚災害によって大杉谷が元の姿に戻ったのを好機と受けとめて、大杉谷の自然、気象、地形、事故の特徴などを歴史的に把握分析して衆知を集めて大杉谷の在るべき姿を求める時ではないか。 大杉谷は昭和初年に近鉄によって登山道や桃ノ木小屋が開設されて以来、長く観光地として宣伝されてきたために、巷では大台ヶ原と並ぶ観光地としての認識が定着しているが、行政も観光業者もこの際、観光政策を改めるべきではないか。観光のメリットよりも遭難救助のデメリットのほうが大きくなっているとすれば、今が政策転換の正念場である。 2008年11月1日 |
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